海外勤務での現地社員との付き合い方[プライベート編]

日本で当たり前だからといって、無意識に海外でもそうだろうと思ってしまうことはいくつかあるかと思います。例えば仕事帰りに同僚や上司と飲みに行って終電で帰ることも、その一つではないでしょうか。しかしこれは、海外では稀な習慣のようです。アジア諸国では似たところもあるのかもしれませんが、平日から繁華街は夜中まで人がいっぱいで、終電も満員に近いのは、特に西欧の人には不思議に見えるようです。
                                                                    
私が現地採用されたラテン系の諸国では、一般的に仕事帰りに同僚と食べに行ったり飲みに行ったりということはあまり無いのですが、この理由は大きく二つあると思います。
 
一つは、家族との生活を大切にしているからです。家族の為に仕事をしているわけですから、仕事が終われば家に帰って子供と一緒にご飯を食べ、子供の宿題をみる。そして子供を寝かしつけてから、伴侶と一緒にテレビを見ながらくつろぐ、というのが平日の一般的な過ごし方のようです。バーやパブなどに飲みに行く人もいますが、独身や単身の人が多いようです。サッカーが盛んな国では、大きなサッカーの試合があるとスポーツバーに集まって、皆でワイワイ観戦することもありますが、それが必ずしも仕事仲間とは限りません。
 
休日も、同僚やお客さんとゴルフに行くことはなく、家族や親戚と過ごすのが普通です。ラテン系の国では特にその傾向が強く、日曜は親戚一同がどこかの家に集まってワイワイ過ごしたり、皆でゾロゾロ通りに出たりしています。親戚の人数が多いと、毎月誰かのお祝い事がありますから、誕生日祝い、卒業祝い、結婚記念日など、何らかのイベントとなります。このような親戚の集まりでは、仕事仲間との集まりよりも、お酒を飲む量も多くなります。
 
海外の人が仕事帰りに飲みに行かないもう一つの理由というのが、むしろ「飲みに行かない方が普通」なので、なぜ日本人が飲みに行くのか、という理由を考えてみます。
 
日本人が同僚と飲みに行ったり、上司が部下を連れて飲みに行ったり、お客さんの接待のために飲みに連れて行ったりするのは、同僚であれば上司の愚痴を言うため、上司が部下を連れて行くのは部下の本音を聞くため、お客さんの接待であれば受注につなげるため、といったところでしょうか。しかしこれは、日本ではいかに職場が、タテマエとホンネで成り立っているかのあらわれかもしれません。
 
日本の職場はえてして、皆おとなしく仕事をしており、上司と議論することもなく一見平和ですが、何かに蓋をした状態のような感じがしました。そして仕事が終わって外に出て初めて、その蓋がとれて色んな感情や普段隠れている人格が、夜の街で吹き出してくるのかもしれません。
 
海外では、仕事の愚痴はたいていその場で言いますし、同僚や上司と議論することもあります。但し同僚や上司との関係はあくまで仕事の関係でありプライベートの関係ではないため、喧嘩になったとしても仕事は仕事と割り切っています。誰かと険悪になったからといって、それがプライベートに影響を及ぼすことは通常ありません。
 
また客先の接待は、奥様も招待して高級レストランでフォーマルに食事、ということが多いです。その場合は自分の方も奥さんを伴うことになりますから、奥さんの出番も多くなります。国によっては、自分の結婚式のパーティーや休日の自宅でのバーベキューに、お客さんを招待して関係を強化すると、受注につながることもありますが、いずれにしても自分や相手の家族同伴ですから、仕事の話は殆どしません。
 
また西欧の人はもともと日本人よりお酒に強いようですが、そもそも酔っ払うことは彼らの美的感覚から大きくはずれており、人前で酔っ払うことは大きな恥となるようです。中世の時代から、酒場や通りで酔っ払うのは貧乏な庶民というイメージもあるせいでしょうか。酔っ払うことは恥と思う気持ちが無意識にブレーキとなるのか、限界を超えて飲むことはほとんどありません。また残業をしない西欧人は、仕事は日中に手際よくさっさと片付けたいので、二日酔いは大敵です。
 
このように海外では、仕事とプライベートがはっきり分かれていると思った方が正解です。なので、独身か単身の日本人の海外勤務者が、独身の現地社員に誘われて飲みに行ったとしても、同僚や上司の悪口はあまり言わない方がよいでしょう。

そういう話題が出ることもありますが、そうした話はあっさり終わらせて、別の話題で盛り上がる方が多いです。私が体験した女性社員だけの集まりの場合は、同僚や上司の話題が長くなることもありますが、自分のパートナー・子供の自慢や、旦那さんの愚痴の方が多いこともしばしば。私は男性同士の集まりに参加したことはありませんが、もしかしたら、同僚や上司の愚痴よりも、奥さんの愚痴の方が多いかもしれません。でもこれも、本気の愚痴ではなくて、ある意味のろけに近い愚痴でもあります。
 
海外では、仕事仲間とプライベートで付き合わなくても、勤務時間に皆とうまくやっていれば、変な人と思われることはありません。むしろプライベートの付き合いで仕事の話を持ち出すと嫌がられる場合もありますから、同僚や上司の悪口だけでなく、なるべく仕事の話はしないようにした方が無難です。

外国人であることで現地社員が誘ってくれることもありますが、普通は仕事時間のランチとか、ちょっとビールでも飲みにいく程度でしょうか。あるいは自宅に招待してくれることもありますが、奥さんやお子さんが一斉に向かえてくれますから、仕事の話はしません。

自分の過去の仕事の経験などを話すと、興味深く聞いてくれたりしますが、話題としてはそれよりも、仕事とは全く関係ない自分の趣味の話とか日本の文化の説明などの方が、盛り上がったり喜ばれたりします。
 
海外勤務を考えている人は、そうした勤務時間外のおつきあいで話題が豊富でいられるように、何か目を輝かせて話せる趣味をもったり、日本の文化や習慣などを説明できるようにしておいた方がよいでしょう。仕事の話とか、同僚や上司に対する愚痴しか話題がない人は、海外では好まれないと思っておいた方がよいかもしれません。

この記事を書いた人

T様

海外在住暦20年のビジネスウーマン。夢だった海外生活のため日本の勤務先を休職し、スペインに単身留学。卒業後、現地の日系グローバル企業に就職し、その後南米に転職。合計4ヶ国での勤務を経て、現在は営業管理職を務める。

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